立ち退き

賃貸物件の売却を考えたときに、「まず入居者に立ち退いてもらわないと売れない」と考えている方が多くいらっしゃいますが、立ち退きは売却の必須条件ではありません

立ち退きを求めるには法律上の「正当事由」が必要で、交渉が長引く場合には、売却そのものが1年・2年と先送りになってしまいますが、入居者が住んだままでも賃貸物件を売却する方法があるため、ご安心ください。

今回は宮城県・福島県・茨城県で年間900件以上の不動産取引をサポートしている『イエステーション』が、正当事由の判断基準・立ち退き料の相場から、退去を求めずに売る方法までをお伝えします。

手元により多くの売却益を残せる方法を判断できるようになりますので、ぜひ最後までご覧ください。

賃貸物件の売却に立ち退きは必須ではない

不動産問題

賃貸物件を売却する選択肢は主に3つで、入居者が住んでいる状態のままでも売却できます

  • 【立ち退きが必要】立ち退きを求めて、空室または更地にしてから売却する
  • 【立ち退き不要】オーナーチェンジ物件として、入居者が住んだままの状態で売る(仲介)
  • 【立ち退き不要】不動産会社に直接買い取ってもらう

賃貸物件を売却しても、入居者との賃貸借契約は消えません。

賃貸物件の入居者はすでに建物の引き渡しを受けていて、法律上、建物の賃貸借契約に登記は不要です。

そのため借主は、賃貸物件が売却され物件の所有権が新しい所有者に移転した時点で、自然と契約の効力・内容を主張できる状態にあります。

なお、賃貸物件の売却時に立ち退きは必須ではありませんが、今すぐではなく将来の賃貸物件売却をお考えの場合には、以下の点を念頭に置いて準備をしておくと、売却時のトラブルを防止しやすくなります

  • 借主から預かった敷金は、新しい所有者へ引き継ぐのが一般的
  • 賃貸物件を空室または更地にして売却したい場合には、借主が入れ替えとなる時点で「普通借家契約」ではなく「定期借家契約」に切り替えると、契約を終了しやすい※
  • 家賃の滞納が続き、貸主・借主間の信頼関係が壊れたといえる程度(一般的に3ヶ月程度の滞納があり、支払いを催告しても応じない場合)に達している場合には、契約解除が可能なので、滞納からのやり取りを記録しておくことがたいせつ

※定期借家契約を成立させるためには、「契約の前に”更新なし”を記載した書面交付」「契約期間1年以上の場合は、期間満了の1年前から6ヶ月前までに終了の通知をする」必要があります。

立ち退きを求めることが可能な正当事由とは|「賃貸物件を売却したい」だけではNG

老朽化した賃貸物件

賃貸物件を空室または更地にしてから売却する場合には、「正当事由」があるかどうかで、借主に立ち退きを求められるかどうかが決まります

「物件を売却したい」という理由だけでは、立ち退きの正当事由とはならないため、次に正当事由の具体的な内容をご確認ください。

立ち退きの可否を決める「正当事由」の4つの判断要素

貸主が立ち退きを求めて借主が合意した場合には、退去期日などを定めた退去合意書を締結し、問題なく退去までの流れが進みます

一方で、借主が立ち退きに応じず、「これ以上の交渉も難しい」と判断する段階に至った場合には、貸主は以下4つの要素を持つ「正当の事由」を主張して訴訟を起こすことが可能です。

以下4つの要素は裁判所の判断材料です。

要素内容
【最も重要】
貸主・借主それぞれが建物の使用を必要とする事情
貸主側の「切実な必要性」と、借主の「退去によってどれだけ困るか」を比較
賃貸借期間中の経過・契約からの年数
・家賃の滞納や増減額の経緯
・これまでの貸主と入居者の関係
建物の利用状況および建物の現況・借主が実際に生活の本拠地として使っているか
・老朽化の程度
・耐震性の問題
立ち退き料(財産上の給付)の申出立ち退きの可否を決めるうえで、上記3つの要素だけでは判断が難しい場合に、補う要素として考慮される

ただし、訴訟まで至るケースは少なく、実際には「借主が立ち退きに応じない→弁護士を通して交渉→民事調停→訴訟」という流れの中で、多くは訴訟の前に合意に至ります

「正当事由」の具体例

正当事由の具体例は、以下のとおりです。

  • 貸主自身やご家族が他に住む場所がなく、賃貸物件を自己使用のために使いたい
  • 老朽化によって倒壊の危険性があり、耐震診断を受けた結果修繕では対応できない、修繕に多額の費用が必要
  • 賃貸物件を相続で取得したが、相続税が払えないため、相続税の納付期限までに売却したい
  • 賃貸物件を購入した際に利用したローンの返済ができなくなったため、売却してローンを返済したい など

なお、入居して間もない借主の場合には、長く住んでいる借主と比較して立ち退き交渉が難航することを想定しておきましょう

借主にとって、入居直後の再度の引越しは、負担が重いためです。

空室にしたうえでの売却や解体の予定がある場合には、後のトラブルにならない適正な判断を不動産会社へ相談することをおすすめします

宮城県・福島県・茨城県で賃貸中の物件売却をご希望の方は、イエステーションへお問い合わせください。

売却予定に応じて、スムーズに売却を進めるプランを提案いたします。

賃貸物件の売却で立ち退きにかかる期間と費用

立ち退き費用の目安

ここまでご紹介してきたとおり、賃貸物件の売却時に立ち退きは必須でなく、借主に立ち退きを求める場合にも、立ち退き料が必ず発生するとは限りません。

また、立ち退き料が発生するとしても法令上の基準は定められていません。

そこで次に、「立ち退きの流れと期間」「立ち退きにかかる費用の目安」を一緒に確認しましょう。

立ち退きの流れと期間

立ち退きの流れは以下のとおりです。

流れ内容
①内容証明郵便で通知を出す・期間の定めがある契約
満了の1年前から6ヶ月前までに「更新しない旨」を通知
・期間の定めがない契約
「解約の申入れ」を通知
②入居者ごとに個別に事情を聴き取り・立ち退き料が必要な場合に具体的な提示額を決める材料として、聴き取りが必要
・退去時期の見通しも聴き取り
③立ち退き条件を提示・書面で「立ち退き料」「金銭以外の条件」を組み合わせて提示
・入居者ごとに条件が違ってもOKだが、明確に提示できる理由を元にした条件でないと、立ち退き交渉難航の元になる
④退去合意書を締結口頭の合意ではなく「立ち退き料」「退去期日」などを明記した合意書を締結
⑤明け渡しと引き換えに立ち退き料を支払い・鍵の返却を受け、室内の状態と残置物の有無を確認したうえで、立ち退き料を支払う
・先に立ち退き料を支払うと退去しなかった場合に回収が難しくなるため、必ずこのタイミングで支払う※

※実務上、引越し費用や新居の初期費用は退去前に支払いが必要ですので、一部を先に支払い、残額を明け渡し時に支払う形にするケースもあります。

こちらの記事で、不動産売買の流れもご確認いただけます。

なお、上記の流れを専門家に依頼できる範囲には限りがあり、貸主が主体となって実施します。

  • 不動産会社に依頼できる範囲:入居者との連絡窓口、転居先の紹介、立ち退き料の根拠資料収集、明け渡し時の室内確認
  • 弁護士に依頼できる範囲:立ち退き交渉、内容証明の作成・送付、調停・訴訟の代理、合意書の法的チェック

立ち退きの通知からすべての住戸の明渡しが完了するまでの期間は、戸数が多いほど長くなる傾向があり、10戸ほどの賃貸物件では1年〜3年ほどの時間がかかるケースもあります

法律上、以下のような期限が定められていますが、借主ごとのさまざまな事情があるため、6ヶ月で明渡しが完了することは、ほとんどないと考えておきましょう

  • 「2年契約」など一般の賃貸借契約:期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に更新しない旨を通知
  • 期間の定めがない賃貸借契約:解約を申し入れた日から6ヶ月経過で契約終了

また、通知した期間の期間満了後も入居者が住み続けていて、貸主が遅滞なく異議を述べなかった場合には、従前と同じ条件で契約が更新されたものとみなされる点にも、注意が必要です。

「通知を出した」と安心して放置せず、期間満了のタイミングに備えておく必要があります。

退去合意書に必ず入れる項目

借主が退去に合意した場合に作成する「退去合意書」には、以下の項目を必ず含めます

退去合意書に不備が無いよう、弁護士に確認してもらうことをおすすめします。

項目書き方のポイント
明け渡しの期日「◯月末頃」ではなく、日付を特定して記載
立ち退き料金額・支払時期・支払方法・振込先まで記載
明け渡しまでの賃料免除するのか支払ってもらうのかを明記
原状回復義務免除する場合は、その旨を明記
敷金の精算精算方法と返還時期を記載
残置物の処理期日後に残された物の扱いを定める
期日に明け渡されなかった場合賃料相当額の負担など、取り決めを明記
清算条項本合意書に定めるほか、互いに債権債務がないことを確認

立ち退き料の相場と内訳

立ち退き費用の目安

立ち退き料の金額には、法令上の基準がありません。

目安は「家賃の6〜12ヶ月分程度」ですが、以下のような項目を具体的に調査・確認して最終額を決定します

項目内容
引越し費用・荷物の運搬、旧居の片付け、不用品の処分
・見積書に基づく実費
新居の初期費用・敷金・礼金・仲介手数料・前家賃・火災保険料
・同等の条件の物件を想定した実費
家賃の差額・新居の家賃が現在より高くなる分
・差額×1〜2年分などで設定
慰謝料・迷惑料・転居によって生じる生活上の負担への補償
・交渉で決定

立ち退き料を、明確な根拠のない「家賃の◯ヶ月分」といった額で提示すると、借主からも根拠のない希望金額を提示されるケースがあります。

そのため、不動産会社のサポートを受けながら上記のような調査・確認に基づいた根拠のある額を提示してください

立ち退き料以外に見落とされがちな3つの費用

立ち退きにかかる費用は、立ち退き料だけではありません。

売却額を決める際に見落としがちな以下の費用も見込んで、資金準備をしておきましょう

  • 交渉中の空室損失
  • 更地にして売却する場合の解体費用
  • 弁護士費用

こちらの記事で、解体費用の相場をご確認いただけます。

上記の費用は高額ですので、立ち退き交渉を始める前にご検討ください。

費用が売却額を上回るといった損失が出る場合には、立ち退きの必要性から検討し直す必要があります

立ち退き料を抑える「現金以外の条件提示」

立ち退きの条件として、以下のような「金銭以外の条件」を提示することも可能です。

提示する条件入居者にとっての価値貸主にとっての負担
敷金を退去前に返す新居の初期費用に充てられ、手元資金の不安が解消されるもともと返すお金。タイミングを前倒しするだけ
敷金から原状回復費用を差し引かない実質的な受取額が増える取り壊す建物であれば、原状回復させる意味がない
明け渡しまでの家賃を免除する引越しまでの数ヶ月分の生活費が浮く交渉が長引き、手間や心労が蓄積するリスク低減
転居先を紹介する物件探しの手間と不安が減る不動産会社への依頼で、貸主自体に費用負担はない

特に借主がご高齢の場合、ご自身で新しい住まいを探すこと自体が大きな負担となります。

そのため、転居先の紹介については、現在のお住まいと条件の近い物件をいくつか具体的に提示できるだけで、話が前に進むケースもあります。

【注意】立ち退き料は、払えば必ず出てもらえるわけではない

立ち退き料は、貸主が立ち退きを求める「正当事由」の判断で考慮される要素の一つであって、支払うことで退去を強制できる仕組みではありません。

  • 借主が立ち退きに合意しない限り、最終的には裁判所の判断を仰ぐことになる
  • 裁判所が正当事由を認めた場合でも、判決で示される立ち退き料の額が「貸主の提示額」「借主の希望額」と一致するとは限らない
  • 入居者側に「立ち退き料を請求する権利」があるわけでもない

交渉に入る前に、「ここまで提示しても合意できなければ、別の売り方に切り替える」という上限と期限を決めておくことをおすすめします。

立ち退きトラブルの対処法

立ち退き拒否

最後に、立ち退きトラブルの対処法もご紹介します。

  • 一部の入居者だけ応じない場合の対処法
  • 過大な立ち退き料を請求されたときの対処法
  • 入居者から「居住権がある」と言われた場合の対処法

一部の入居者だけ応じない場合の対処法

一部の入居者だけ立ち退きに応じない状態は、家賃収入は減るのに、取り壊しも更地での売却もできないため、全員が応じない状態よりも損失が大きくなります

一部の入居者だけ立ち退きに応じない場合、まずはご自身でオーナーチェンジ売却か買取に切り替える期限を決めることをおすすめします。

損失を受け入れ続けるのではなく、損切りをする判断です。

そのうえで、立ち退きに応じない借主への立ち退き料上乗せは、慎重に判断してください。

「明渡し日の猶予」など、金銭以外でも提示できる条件はありますし、立ち退き料上乗せは「粘れば金額が上がる」という受け止めにつながり、さらに交渉が難航する材料となる可能性も考えられます。

過大な立ち退き料を請求されたときの対処法

借主に「立ち退き料を請求する権利」があるわけではないため、提示された立ち退き料に応じる義務はありません

対処法は以下のとおりで、直接交渉が難しい場合は弁護士へ代理を依頼する選択も可能です。

  • 借主が提示した請求額の根拠・内訳を確認
  • こちらの根拠・内訳を添えて金額を提示
  • 裁判所が判断するのは希望額ではないことを共有
  • やり取りは記録に残る形で行う

入居者から「居住権がある」と言われた場合の対処法

「居住権」は法律上の用語ではありませんが、借主を保護する法律は実際に存在します

  • 建物の引き渡しを受けていれば新しい所有者にも契約を主張できる
  • 正当事由がなければ、貸主は更新を拒絶できない
  • 契約期間の満了後も入居者が使用を続け、貸主が遅滞なく異議を述べなければ、従前と同じ条件で契約が更新されたものとみなされる など

借主の意思が強固な場合には、早い段階で弁護士へ交渉の代理を依頼するか、ご自身であらかじめ決めた期限に従って立ち退きが不要な方法での売却に切り替えることをおすすめします

ちなみに、任意の交渉がまとまらない場合は「民事調停」または「建物明渡請求訴訟」に進むことになり、さらに売却までの期間が延びます。

手続き内容
①民事調停・簡易裁判所で、調停委員を交えて話し合う手続き
・訴訟より費用と時間の負担が軽い
・合意できれば調停調書が作られる
②建物明渡請求訴訟・調停が成立しなければ訴訟に移る
・裁判所が正当事由の有無を判断
・判決までに1年前後、控訴されればさらに時間がかかる
③強制執行・判決が確定しても退去されない場合に申し立てる
・費用と時間がかかる

まとめ

賃貸物件の売却時に立ち退きは必須ではありませんが、空室での売却・解体後の売却をする場合には立ち退きの交渉が必要となります。

今回は、貸主が立ち退きの理由として提示する「正当事由の判断基準」「立ち退き料の相場と期間」などをご紹介しました。

住戸数が多いほど、立ち退き交渉は手間と時間がかかり、精神的負担も蓄積する傾向があります。

不動産会社のサポートや弁護士への代理依頼など、専門家を活用してスムーズな売却を進めていただけると幸いです。

宮城県・福島県・茨城県で賃貸物件の売却をお考えの方は、イエステーションへお問い合わせください

売主さまが大きな負担を負わないプランの提案、専門家との連携など、ワンストップで対応いたします。