
常磐自動車道を北へ向かい、宮城県へと足を踏み入れる。宮城・福島の県境を越えてしばらく走ると、左手には阿武隈山系の緩やかな稜線が広がり始めます。その中間地点に位置するのが、今回スポットを当てる「鳥の海パーキングエリア(PA)」です。
多くの人々にとって、高速道路のPAは目的地へ向かうための「経過点」に過ぎません。しかし、この鳥の海PAは、わざわざ立ち寄ること自体を目的としたくなるような、不思議な引力を秘めています。そこには、震災を乗り越えた地域の力強い食文化、そして訪れる人を家族のように迎え入れる「細やかなおもてなし」が息づいています。
風景がデザインの一部になる――木の温もりとモダンな建築美
鳥の海PAに降り立ってまず感じるのは、周囲を遮るもののない圧倒的な「空の広さ」です。建物は木材をふんだんに使用したモダンな平屋造り。都会の喧騒を忘れさせる、ナチュラルで落ち着いたデザインが旅の緊張を解きほぐしてくれます。
ここには華美な展望台はありません。しかし、だからこそ建物の木の質感や、宮城の澄んだ空気、そして潮の香りが主役となります。計算されたシンプルな色彩設計は、どこを切り取っても絵になり、空間そのものが一つのアートとして機能しています。

トイレに咲く「おもてなしの芸術」――ドライフラワーと折り紙
鳥の海PAを語る上で、絶対に避けて通れない場所があります。それは、意外にも「トイレ」です。「PAのトイレについて語る」と聞けば驚かれるかもしれません。しかし、ここには日本一と言っても過言ではないほどの「温かなお洒落」が詰まっています。
清潔感の先にある「美学」
常に驚くほど清潔に保たれた空間を彩るのは、センス良く生けられたドライフラワー。これらは市販品ではありません。スタッフが季節の草花を丁寧に乾燥させ、バランスを考えて束ねた手作りです。アンティーク調の色調がモダンな内装と調和し、まるで隠れ家カフェのパウダールームのような品格を漂わせています。

指先から生まれる、季節の「折り紙アート」
さらに訪れる人を笑顔にするのが、精巧な折り紙です。単なる折り紙ではなく、春には桜、夏にはひまわりと、季節の移ろいが手作業で表現されています。「運転で疲れた方が、少しでもリラックスできるように」という無言のメッセージ。効率優先の現代において、これほど手間暇をかけた温かな「おもてなし」があるでしょうか。

震災の記憶と、希望を繋いだ再開の光
2011年3月11日、東日本大震災によって一変した。 亘理町の沿岸部は巨大な津波に飲み込まれ、鳥の海周辺の家々やイチゴ畑、そして誇りだった漁場は壊滅的な被害を受けた。常磐自動車道も各地で寸断され、このエリア一帯は長い静寂と深い悲しみに包まれた。
そこからの歩みは、決して平坦なものではなかった。それでも、地元の人々は「もう一度、鳥の海に活気を取り戻したい」という一心で立ち上がった。塩害に負けずにイチゴの苗を植え直し、泥をかき出し、一歩ずつ、しかし確実に復興の足跡を刻んできた。
2015年、常磐自動車道の全線開通に伴い、鳥の海PAが本格的にその姿を現したとき、それは単なる道路施設の完成以上の意味を持っていた。それは、分断されていた宮城と福島、そして関東を繋ぐ「希望の架け橋」が完成した瞬間だったのだ。
亘理の誇りを味わう――復興の象徴「はらこ飯」と「いちご」
鳥の海PAには、いわゆる売店やレストランはありません。あるのは清掃の行き届いたトイレと、静かな休憩スペースだけ。しかし、それは『ここを拠点に、本当の亘理町を味わいに行ってほしい』というメッセージのようにも感じられます。
スマートICを降りて車を5分も走らせれば、そこには旬の『はらこ飯』を味わえる名店や、地元の特産品が並ぶ『鳥の海ふれあい市場』など、亘理の『本物』があなたを待っています。
郷土の至宝「はらこ飯」
秋の主役は、伊達政宗公も愛したと言われる「はらこ飯」。鮭の煮汁で炊き込んだご飯に、ふっくらとした鮭の身と、宝石のように輝くイクラ(はらこ)をたっぷりとを載せた姿はまさに食のアートです。一口食べれば、鮭の旨味とイクラの塩味が絶妙なハーモニーを奏でます。
赤い宝石「いちご」のスイーツ
震災の甚大な被害から立ち上がった農家たちの情熱は、今、イチゴのスイーツへと姿を変えました。「可哀想だから買う復興支援」ではなく、「素敵だから手に取る」という、新しい復興の形がここにあります。
鳥の海PA発:五感を癒す日帰りリフレッシュコース
鳥の海PAのスマートICを活用すれば、わずか5分で極上のリゾートタイムが始まります。
【11:30】鳥の海PAにて「手仕事の美」に触れる
まずはPAに到着。前述したトイレのドライフラワーや折り紙アートを鑑賞し、スタッフの方々の細やかなホスピタリティに心を緩めます。
【12:15】スマートICを降りてすぐ「本場のはらこ飯」を堪能
鳥の海PAスマートICから車で約5分。周辺の荒浜地区には、代々伝わる味を守る名店が連なっています。
・おすすめ: 「あら浜」や「田園」など。
・体験: 秋から冬にかけては、ふっくら炊き上がった鮭と、口の中で弾ける大粒のいくらが贅沢にのった「はらこ飯」を。旬を逃した時期でも、地元産の「ほっき飯」や新鮮な海鮮丼があなたを待っています。
【13:30】「わたり温泉 鳥の海」で天空の露天風呂
お腹を満たした後は、エリアのシンボル的存在である「わたり温泉 鳥の海」へ。
・ここがお洒落: ここの最上階にある露天風呂は、まさに「天空の湯」。視界を遮るものがない太平洋が眼下に広がり、お湯に浸かると海と一体化したようなインフィニティ体験が味わえます。
・泉質: 琥珀色の「美肌の湯」。お風呂上がりは肌がしっとりし、心身ともに解き放たれます。
【15:00】「鳥の海公園」でお洒落なビーチサイド散策
温泉のすぐそばにある公園や堤防沿いを散歩。
・フォトスポット: 震災から見事に復活したこのエリアは、道が綺麗に整備され、並木道や震災遺構、そして波打ち際がモダンに調和しています。
・お土産: 近くの「きららのがっこう」や地元の直売所で、「完熟いちご」のスイーツや、お洒落なパッケージの海産物を買い足しましょう。
【16:30】夕暮れの鳥の海PAから帰路へ
再びスマートICから鳥の海PAへ。充実した一日を締めくくります。
旅のヒント
・スマートIC: ETCカードの挿入を忘れずに!ここを降りるだけで、移動時間が劇的に短縮されます。
・定休日: 亘理の飲食店は火曜日や水曜日が定休のことが多いため、事前チェックがおすすめです。

心に一輪の花を持ち帰る場所
鳥の海PAがこれほどまでに旅人を惹きつけるのは、単に便利な場所にあるからではありません。そこには、地域の誇りである「食」と、「人の手による温かなおもてなし」が見事に調和しているからです。
トイレの片隅に飾られた小さな折り紙の花に、作り手の体温を感じる。そんな多層的な体験が、通り過ぎるだけの単なる休憩時間を、一生忘れない「旅の記憶」へと昇華させてくれます。
鳥の海PAは、効率やスピードが求められる高速道路の旅路において、あえて手間暇を惜しまず、季節を慈しみ、訪れる人の心を癒そうとする。そんな私たちが忘れかけていた「人間らしい優しさ」に再び出会える、大切な座標なのです。
ぜひ最寄りのイエステーションへご相談ください




