
仙台駅2階、在来線中央改札の正面。多くの人が行き交うこの場所に、ひときわ目を引く美しい光景があります。それが、仙台の玄関口を彩る巨大なステンドグラス『杜の讃歌』です。
1982年、東北新幹線開業を記念して制作されたこの作品は、高さ2メートル、幅10メートルにも及ぶ壮大なスケールを誇ります。その圧倒的な存在感は、見る者を一瞬にして引き込み、日々の喧騒を忘れさせてくれます。『杜の讃歌』というタイトルが示す通り、この作品は、仙台の豊かな自然と歴史、そして人々の営みを讃えるものです。デザインを手がけたのは、画家の近藤善次郎氏。仙台の持つ普遍的な美が、ガラスの輝きを通して表現されています。
輝くガラスに込められた仙台の物語
このステンドグラスは、ただ美しいだけでなく、仙台の歴史と文化を象徴するモチーフが随所に散りばめられています。
まず目に飛び込んでくるのは、仙台の街を見守るようにそびえ立つ伊達政宗公の騎馬像です。青葉城址に立つ政宗公の姿は、仙台の礎を築いた偉大な人物への敬意と、その志が現代まで受け継がれていることを示唆しています。黄金色に輝く甲冑や、凛々しい表情は、見る者に力強いメッセージを伝えます。
政宗公の足元には、清らかな流れを表現した広瀬川が描かれています。青色から水色、そして透明なガラスのグラデーションが織りなす広瀬川の姿は、まるで実際に水が流れているかのように生き生きとしています。広瀬川は、仙台の街の歴史を見守り、人々の生活に潤いを与えてきました。この作品における広瀬川の表現は、仙台の街と人々が自然と共生してきた証でもあります。
そして、作品全体を包み込むように描かれているのが、仙台の象徴である「杜」です。新緑の若葉から深みのある緑、そして紅葉の赤や黄色まで、四季折々の杜の表情が、複雑なガラスの組み合わせによって見事に表現されています。特に、光が当たることで生まれる微妙な色の変化は、まるで杜の中を歩いているかのような感覚を呼び起こします。杜の木々は、仙台の街が緑豊かな自然に恵まれていることを示し、私たちに安らぎを与えてくれます。

光と時間の織りなすアート
『杜の讃歌』の魅力は、単にそのデザインにあるだけではありません。この作品は、光という要素によって、その表情を刻々と変化させます。
朝、東の窓から差し込む朝日を浴びたステンドグラスは、柔らかな光を放ち、清々しい空気感を演出します。新緑の緑はより鮮やかに、広瀬川の青はより澄んだ色を放ち、一日の始まりを告げてくれます。
昼間、太陽が真上に昇る時間帯には、ガラスの持つ本来の色が最も鮮やかに輝きます。細部まで緻密に計算されたガラスの配置は、光の角度によって様々な表情を見せ、見る者を飽きさせません。
そして、夕暮れ時。西に傾く太陽の光が差し込むと、ステンドグラスは黄金色に染まり、幻想的な雰囲気を醸し出します。政宗公の騎馬像はより重厚な存在感を放ち、杜の木々はまるで夕焼けに照らされたかのように赤やオレンジに輝きます。この時間帯にステンドグラスを眺めるのは、まるで特別なショーを見ているかのようです。
また、季節や天候によってもその表情は変わります。冬の晴れた日には、寒々とした空の下でも、ステンドグラスは温かな光を放ち、人々の心を温めてくれます。雨の日には、曇り空の光がステンドグラスを透過し、より落ち着いた、静謐な美しさを引き出します。
このように、『杜の讃歌』は、時間や天候、季節といった自然の要素と一体となり、常に新しい表情を見せてくれる生きたアート作品なのです。

仙台のシンボルとしての役割
『杜の讃歌』は、単なる装飾品ではありません。それは、仙台の駅を利用する人々にとって、なくてはならないシンボルであり続けています。
待ち合わせ場所としての役割は言うまでもなく、多くの人々が「ステンドグラスの前で」という約束を交わします。しかし、それ以上に、このステンドグラスは、仙台を訪れる人々にとって、最初に目にする、そして最後に心に残る光景となることが多いのです。
旅行で仙台を訪れた人々は、この壮大なアートに魅了され、旅の始まりに期待を膨らませます。そして、旅の終わりに再びこのステンドグラスを眺める時、彼らは旅の思い出を振り返り、仙台という街への愛着を深めます。
また、地元の人々にとっても、このステンドグラスは特別な存在です。上京する際、あるいは遠方から帰省した際、このステンドグラスを眺めるたびに、故郷への思いを新たにする人は少なくないでしょう。それは、単なる待ち合わせ場所ではなく、心の故郷に帰ってきたことを実感させてくれる、心の拠り所なのです。
制作から40年以上が経過した今もなお、『杜の讃歌』は、仙台の玄関口で静かに、そして力強く輝き続けています。それは、仙台という街が、常に進化しながらも、その豊かな自然と歴史を大切にしていることを私たちに教えてくれます。
次に仙台駅を訪れた際は、ぜひ立ち止まって、このステンドグラスをじっくりと眺めてみてください。そこには、ただ美しいだけでなく、仙台の心と魂が凝縮された、壮大な物語が広がっているはずです。
