売主からの売買契約の解除は
いつまでできる?

双方が納得したうえで合意し締結した売買契約なのでできるだけ実現したいものですが、場合によってはやむなく契約を解除したい場合もあるでしょう。

この記事では、売買契約の解除、とくに売主の立場からいつまでなら解除できるかを解説します。

一般的な解除の条件

売主と買主が双方解除することに合意できれば既にした契約を解除することが可能です。

その他、締結した不動産売買契約書には、解除の期限や方法について細かく定められているのが通常なので、解除を検討するときには、まず売買契約書の内容を確認しましょう。

不動産の売買契約の解除は、契約書に記載されている条件や期限によっておこなわなければなりません。

一般的には、以下のような条件が解除の対象となることが多いです。

  • 住宅ローン特約

買主が金融機関からの融資を受けられない場合、契約を遡及的に解除することができる特約です。

  • 債務不履行

売主または買主が契約上の義務を果たさない場合、解除することができます。

  • 契約不適合責任

物件に隠れた瑕疵があった場合など、契約内容と実際の状態が異なる場合に解除が可能です。

  • 手付金による解除

手付金を放棄・倍返しすることで契約を解除することができます。

「住宅ローン特約」や「契約不適合責任」は主に買主の保護を目的としている条件なので、売主が利用できるのは「債務不履行」や「手付金による解除」となるでしょう。

 

解除には相手方への通知や合意が必要な場合がありますので、法律専門家に相談することをお勧めします。

手付金による解除

不動産売買契約における手付金の解除には、一定の期限や条件が設けられています。

以下のポイントに注意してください。

  • 手付解除期限

契約から決済までの期間に応じて、手付解除期限が設定されます。

例えば、契約から決済までの期間が1ヶ月以内の場合は、残りの代金支払い日の7~10日前が目安となります。

1ヶ月以上の場合は、契約日から決済日の中間が基準になることが多いです。

  • 履行に着手した場合の解除

契約の相手方が契約の履行に着手した後は、手付解除をすることはできません。

履行に着手するとは、契約に基づく具体的な行動が開始された状態を指します。

「履行の着手」については、項を改めて解説します。

  • 違約金の有無

手付解除期限を過ぎてから契約解除をする場合には、違約金の支払いが発生する可能性があります。

また、損害賠償請求を受ける場合もあるため、手付解除期限を安易に決めることは避けるべきです。

  • 宅建業者の場合の制限

宅建業者である売主が受け取ることのできる手付金の金額には制限があり、売買価格の2割までと定められています。

これらの情報は一般的なガイドラインであり、具体的な契約内容や事情によって異なる場合があります。

契約書に記載されている手付解除に関する条項を確認するか、不動産取引に詳しい専門家に相談することをお勧めします。

また、手付解除の手続きには正式な通知が必要な場合が多いため、解除を検討している場合は速やかに行動を起こすことが重要です。

不動産売買契約における「履行の着手」とは

民法では契約の解除について、第557条において次のように定めています。

 

(手付)

第五百五十七条 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。

ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。

 

2 第五百四十五条第四項の規定は、前項の場合には、適用しない。

 

 

これにより、契約の解除にあたり、果たして「履行の着手」があったのかが問題になります。

不動産売買契約における履行の着手とは、契約に基づいて負担された債務の履行行為の一部を行い、それが客観的に外部から認識できるような形であることを指します。

これは、単なる履行の準備行為ではなく、実際に契約の履行に向けた具体的な行動を意味します。

具体的な例としては、以下のような行為が挙げられます。

  • 売主が買主の希望に応じて土地の分筆登記をした場合
  • 売主が建築材料の発注や建築工事に着手した場合
  • 売主が不動産の一部を引き渡した場合
  • 買主が売買代金の一部として中間金(内金)を支払った場合
  • 買主が新居入居に向けて引越し業者と契約した場合

 

これらの行為により契約の履行に着手しているとみなされ、手付による契約解除ができなくなる可能性があります。

つまり、履行の着手があった後は、手付金を放棄したり倍返ししたりして契約を解除することはできないとされています。

履行の着手に関する判断は、契約内容や事情によって異なるため、法律専門家に相談することをお勧めします。

また、契約書には「履行の着手」に関する条項が記載されていることが多いので、契約書の内容を確認することも重要です。

 

手付金の倍返しとは

手付金の倍返しとは、不動産売買契約において、売主が契約を解除する際に買主に対して支払った手付金の2倍を返還することを指します。

これは、解約手付として買主から受け取った手付金を、売主が契約を解除するために倍額で返すことにより、契約を解除する行為です。

具体的な例を挙げると、買主が3,000万円の物件に対して300万円の手付金を支払い、契約を結んだとします。

その後、売主が何らかの理由で契約を解除したい場合、買主に対して手付金の倍である600万円を返還することで、契約を解除することができます。

この場合、買主は手付金300万円に加えて、さらに300万円を受け取ることになります。

つまり、手付金と同額が違約金の性質をもつということです。

 

手付金の倍返しは、売主側の都合で契約を解除する場合に適用されるもので、買主側が契約を解除する場合は「手付流し」と呼ばれ、手付金を放棄することで契約を解除することができます。

手付金の倍返しは、民法で認められている制度であり、契約書にもこの規定が記載されていることが一般的です。

 

ただし、契約解除の条件や手付金の取り扱いについては、契約書の内容や当事者間の合意によって異なる場合がありますので、契約を結ぶ際には契約書の詳細を確認し、必要に応じて専門家に相談することが重要です。

また、手付金の倍返しを行う際には、正式な手続きを経て行う必要がありますので、その点にも注意が必要です。

まとめ

売主が不動産売買契約を解除する方法には、いくつかのパターンがあります。

以下の方法をご検討ください。

  1. 合意解除

買主との間で話し合いを行い、双方の合意のもとで契約を解除します。

この場合、手付金の返還や違約金の支払いについても話し合いで決定されます。

  1. 手付金の倍返し

売主が手付金の倍額を買主に返還することで契約を解除することができます。

これは、買主が手付金を放棄して契約を解除する「手付流し」の逆のケースです。

  1. 買主の債務不履行

買主が契約に違反した場合(例えば、約束された期限までに代金を支払わないなど)、売主は契約を解除することができます。

  1. 法定解除

特定の法律に基づいて契約を解除することができます。

例えば、消費者契約法に基づく解除などが該当します。

 

契約解除を行う際には、以下の点に注意してください:

  • 契約書の確認

契約書に記載されている解除条件を確認し、契約書に従って手続きを行います。

  • 正式な通知

契約解除の意思表示は、書面で正式に通知する必要があります。

  • 専門家への相談

契約解除は複雑な法律問題を含むため、不動産専門家や弁護士に相談することをお勧めします。

 

契約解除に関する詳細な手続きや必要な書類は、契約内容や事情によって異なるため、専門家のアドバイスを受けることが望ましいです。

また、解除には違約金が発生する可能性があるため、その点も考慮に入れてください。