不動産売買契約の
解除はできる?

一戸建てやマンション、土地などを売却したり購入したりするときには不動産の売買契約を行います。不動産は高額になり人生に一度だけの買い物という方もあるようにとても大切な契約なので、いったん契約すると法的に拘束されます。しかし、いろいろな事情から契約を解除したい場合も発生することがあるでしょう。

この記事では、一度結んだ不動産売買契約は解除できるのか、できる場合やペナルティについて解説します。

不動産売買契約は解除できる

およそ「契約」は法的な安定のために結ぶものなので、一度契約すると解除するのは難しい性質があります。

とはいえ、まったく解除する方法がないとなれば契約した当事者にとってかえって不利益になることがあるので、契約時に解除できる場合を約束すること一般的で、また、一般消費者を保護するために解除できる場合を定めている法律もあります。

解除できる9つの理由

ここでは、契約を解除できる理由として以下の9つの理由をあげています。

次項から詳しく解説します。

  1. 合意解除
  2. クーリングオフ
  3. 消費者契約法
  4. 手付解除
  5. 目的物の滅失
  6. 反社会的勢力の排除
  7. 融資利用の特約
  8. 契約違反
  9. 契約不適合責任

合意解除

不動産売買契約を「合意解除」するということは、解除するにあたって売主と買主がお互いに納得して一度結んだ契約を解除する「新たな契約」をすることです。

そのため、解除するにあたっての「条件」が定められます。

たとえば、すでに授受されている手付金や中間金の取扱(返還方法や返還期限、利息の有無など)、すでに移転登記などが行われていればその登記の取扱、譲渡所得税や不動産取得税などの税金が発生していれば税金の処理についても話し合いをしなければなりません

売主と買主が合意すれば解除できるので、解除に至る原因は問いませんが、売主にも買主にもそれぞれ事情があるので、簡単には合意できないことが多いのが実情です。

クーリングオフ

一般消費者を保護するために、不動産売買契約にもクーリングオフ制度が適用されます。

不動産売買契約のクーリングオフによる解除とは、不動産を購入する際に、不動産会社からの勧誘による契約であって、契約書面の交付から8日以内であれば、買主が書面で解除の意思を通知することで契約を解除できる制度です。

クーリングオフによる解除は理由を問いませんが、以下のような条件を満たす必要があります。

  • 売主が宅地建物取引業者であること
  • 買主が宅地建物取引業者以外であること
  • 申し込みや契約が宅地建物取引業者の事務所以外の場所で行われたこと
  • 物件と代金の受け渡しが完了していないこと

クーリングオフによる解除は書面で行う必要があり、書面には以下の内容を記載します。

  • 解除する契約の内容(物件の住所や種類、売買代金など)
  • 解除する理由(クーリングオフによるものであること)
  • 解除する日付
  • 買主の氏名や住所、連絡先
  • 買主の署名や押印

書面は内容証明郵便や書留郵便など、送付した日付や内容が証明される方法で送ります。

クーリングオフによる解除をした場合、不動産会社は手付金や中間金などを無利息で返還しなければなりません。

また、不動産会社は損害賠償や違約金を請求することができません。

消費者契約法

消費者を保護するための制度として消費者契約法も利用できます。

不動産売買契約の消費者契約法による解除とは、不動産を購入する際に、事業者からの勧誘や説明によって、消費者が誤認や困惑したり、不利益な条項に同意したりした場合に、消費者が書面で解除の意思を通知することで契約を解除できる制度です。

消費者契約法による解除は、以下のような条件を満たす必要があります。

  • 売主が法人や個人事業主などの事業者であること
  • 買主が事業目的ではない個人であること
  • 事業者が重要な事項について事実と異なることを告げたり、将来の変動が不確実な事項について断定的判断を提供したり、不利益となる事実を故意に告げなかったりしたこと
  • 消費者がその内容が事実であると誤認したり、困惑したりしたこと
  • 消費者が追認できる時から1年以内に書面で解除の意思を通知したこと

消費者契約法による解除は書面で行う必要があり、書面には以下の内容を記載します。

  • 解除する契約の内容(物件の住所や種類、売買代金など)
  • 解除する理由(消費者契約法によるものであること)
  • 解除する日付
  • 買主の氏名や住所、連絡先
  • 買主の署名や押印

書面は内容証明郵便や書留郵便など、送付した日付や内容が証明される方法で送ります。

消費者契約法による解除をした場合、事業者は手付金や中間金などを無利息で返還しなければなりませんし、事業者は損害賠償や違約金を請求することができません。

手付解除

手付解除とは、たとえば、契約締結後一定期間までなら買主は手付金を放棄することで原則として理由を問わずに契約を解除できるという取り決めのことです。

不動産売買契約書に「手付解除」という項目があるか、確認してみましょう。

手付金とは、不動産を購入する際に買主が最初に売主に支払う金額のことで、通常物件価格の1割程度になっています。

手付金は、買主の購入意思の証明や契約違反時の損害賠償金として機能しますが、手付解除の条項があれば、解約権を確保するためにも使われます。

手付解除の期限は、「相手方が契約の履行に着手するまで」等とされています。

契約の履行に着手するとは、例えば売主が住宅の引き渡しをしたり、買主が代金の支払いをしたりすることです。

契約書に定められた期限を過ぎると、手付解除はできなくなります。

手付解除の方法は、売主から解除する場合は、手付金と同額の金額を追加で支払う必要があります(手付倍返し)。

買主から解除する場合は、支払った手付金を返還請求しないことで解除できます(手付放棄)。

手付解除は、不動産売買契約において重要な条項ですから、売主や買主はこの条項をよく理解しておく必要があります。

目的物の滅失

不動産売買契約の目的物滅失による解除とは、不動産の売買契約をした後引渡し前に、天災地変やその他の不可抗力によって、売買対象の不動産が全くなくなったり、大きく損傷したりして、契約の履行が不可能となった場合に売主と買主が互いに契約を無効にすることです。

この場合、売主は受け取った手付金や中間金を無利息で返還しなければなりません。

買主は代金の支払いを拒否することができます。

反社会的勢力の排除

反社会的勢力廃除理由による解除とは、契約を締結する際に、契約書や規約などに「反社会的勢力排除条項」(以下、反社条項)という項目を設けることで、契約相手が反社会的勢力であることや、不当な要求をすることなどが発覚した場合に、契約を解除できるようにすることです。

反社会的勢力とは、暴力や威力・詐欺的手法を用いて、経済的利益を追求する集団や個人のことで、暴力団や総会屋・特殊知能暴力集団などが含まれます。

反社条項を定める理由として以下のようなものがあげられています。

  • コンプライアンスを徹底するため
  • 反社会的勢力への協力を拒否し、社会的責任を果たすため
  • 反社会的勢力からの不当要求を回避するため
  • 自社が反社条項に抵触することを防ぐため

反社条項は、契約書や規約などに明記するだけでなく、実際に契約相手が反社会的勢力でないかどうかを確認したり(反社チェック)、契約中に反社会的勢力からの不当要求があった場合には速やかに対処したりする必要があります。

融資利用の特約

不動産売買契約の融資利用特約による解除とは、不動産を購入する方がローンを利用することを前提として契約を結んだ場合に、金融機関からのローン承認が期日までに得られないか否認されたときに、買主が契約を解除できるという条項をいれておく場合に利用できる解除方法です。

この条項は、買主の購入意思の保証として支払った手付金や中間金を無利息で返還されるというメリットがあります。

融資利用の特約を利用するときには、以下のような点に注意しましょう。

  • 契約書に「融資利用の特約」という項目があることを確認すること。
  • 契約書に「融資承認取得期日」と「契約解除期日」が明記されていることを確認すること。
  • 融資の申込みは契約締結後すみやかに行うこと。
  • 融資の結果は売主や不動産業者に逐一報告すること。
  • 融資が得られないか否認された場合は、契約解除期日までに売主に解除の通知を書面で行うこと。

融資利用の特約による解除は、不動産売買契約において重要な権利ですが、適切な手続きを行わなければなりません。

契約違反

契約違反による解除とは、契約締結後、売主や買主が契約に定められた義務を履行しない場合、相手方に書面で催告した上で、契約を解除して違約金を請求できるという取り決めのことです。

契約に定められた義務とは、例えば以下のようなものがあります。

  • 買主の代金の支払い
  • 売主の物件の引渡し
  • 売主の抵当権等の抹消
  • 売主の所有権移転登記等の協力
  • 売主の引渡し完了前の滅失・毀損(善管注意義務違反)
  • 反社会的勢力の排除条項

これらの義務に違反した場合は、契約解除の理由になりますが、一定期間を決めて文書を以て相手に催告して契約の履行を促す必要があります。

契約違反により違約金が発生します。

違約金とは、契約解除時に支払う損害賠償額のことで、通常は売買代金の10%~20%程度とされます。

違約金は、あらかじめ契約書に記載しておく必要があります。

違約金は、現に生じた損害額と関係なく、増減しないこととされています。

契約不適合責任

先の契約違反の一つの類型として契約の本旨に従って履行されない「債務不履行」責任を問うものとして契約不適合責任があります。

これは、「契約不適合があるから即解除」というものではなく、解除に至るまでに「追完」や「代金減額」などを検討し、最終的に満足するに至らなかった場合に売買契約を解除できるとするものです。

解除する場合に注意しておきたいこと

不動産売買契約は高額な取引ですから、契約解除は慎重に行う必要があります。

契約解除の方法や条件は、契約書や重要事項説明書などに記載されていますので、よく確認しておきましょう。

また、契約解除の際には必ず書面で伝えることや、内容証明郵便を利用するなど後日のトラブルを防ぐ方策をとることが大切です。