親が老人ホームに入居したとき
実家はどうすればよい?

 ひとり親が老人ホームに入居することになったので、実家が空き家になる。売却するのが良いのか、このまましばらくおいておくのがよいものか、悩んでしまいます。

売却するメリットとデメリット

 ひとり親が老人ホームに入居して、子どもは別に自宅を持っている場合には売却も検討することになります。親の自宅の売却を検討するにあたってそのメリットとデメリットを整理しましょう。

 売却するメリット

 1. 売却代金を老人ホームなどの費用に充当できる
 2. 家の維持管理、費用の負担がなくなる

 1.売却代金を老人ホームなどの費用に充当できる
 実家を売却すれば売買代金が入りますから、そのお金を老人ホームの入居費や介護費用にあてることができます。親が住んでいた自宅であれば自宅売却の3,000万円控除が利用できますから、高値で売れても譲渡所得税はほとんどかからず有利に親のために利用できます。

 2.家の維持管理、費用の負担がなくなる
 空き家になれば定期的な掃除、換気、草刈りなどメンテナンスをしなければ、すぐに荒れてしまいますし、防犯上もよくありません。近くにいれば負担は少なくてすみますが、遠くに住んでいると定期的なメンテナンスが負担になります。また所有しているだけで固定資産税は課税されます。空き家であっても安心のために火災保険も必要です。また、メンテナンスのために電気や水道も契約を切らずにおかなければなりません。売却をすれば、これらの手間や費用がかからなくなります。

 売却するデメリット

 1. 親の心のよりどころがなくなる
 2. 老人ホームから退去を求められると行き場所がなくなる

 1.親の心のよりどころがなくなる
 長年暮らしてきた自宅がなくなるのは、親本人にとってみればとても寂しいものです。老人ホームに入居するにしてもいつかは自宅に戻るという希望をもって入居する親もいるでしょう。

 2.老人ホームから退去を求められると行き場所がなくなる
 老人ホームから万一退去を求められた場合には、自宅を売却していれば行く場所がなくなってしまいます。

税金はどうなる?

 次のような税制の特例があります。
 ● 自宅の売却なら3,000万円の特別控除が利用できる
 ● 相続空き家の3,000万円特別控除
 ● 小規模宅地の特例

 ●自宅の売却なら3,000万円の特別控除が利用できる
 自宅を売却した場合には、売却利益から3,000万円まで控除を受けることができます。ただし、この特例は居住しなくなってから3年目の12月31日までに売却することが条件になっていますから、老人ホームに入居した後期限内に売却する必要があります。
ただし、老人ホームに入居するのが身体又は精神上の理由により介護を受けるための一時的な利用であり、いつでも戻れるように自宅が維持管理されていた場合は3年たっても特例を受けることができる場合もあります。

 ●相続空き家の3,000万円特別控除
 こちらは親が亡くなって相続した後に売却した時の税金特例です。親が一人で住んでいた家を売却した時には3,000万円まで譲渡所得から控除されます。昭和56年5月31日以前に建築された一戸建て住宅などの要件があります。親が住んでいたことが要件になっていますが、老人ホームに入居していた場合でも要件を満たせば利用することができます。

 ●小規模宅地の特例
 親が亡くなった時の税金の特例です。小規模宅地の相続税の特例は亡くなった方が自宅として利用していた場合などに利用できる制度です。しかし親が老人ホームに入居していて実家が空き家になっていてもこの特例を利用できます。ただし、適用されるためには亡くなった親が要介護または要支援認定を受けていることなど一定の条件を満たしていることが必要です。

売却の手続き

親が老人ホームに入居している場合の売却するための手続きについて、解説します。

 判断能力がある場合

 親がまだ判断能力があれば親自身が売却手続きを行なうことが原則ですが、老人ホームに入居し、自由に活動できないときには子供などを代理人として売却手続きを代行させることができます。
 不動産の売却は通常不動産会社に売却仲介を依頼しますから、不動産会社に相談しながら委任状を本人に作成してもらっておきましょう。委任状には、単に「売却を依頼する。」だけではなく、希望する売却代金や、代理行為の内容(売買契約、手付金の受領、物件の引渡し、売買代金の受領など)をなるべく詳しく書いておくようにしましょう。売却仲介を依頼された不動産会社も本人確認をしますが、売買代金を受け取り、所有権を引き渡す際には、移転登記を司法書士に依頼すれば司法書士は本人確認義務がありますから、必ず親本人との面談を求めます。コロナ禍で老人ホームに立ち入ることができない場合もありますから、テレビ会議方式等本人確認をする方法についても事前に打ち合わせが必要になります。

 判断能力がない場合

 親が認知症になり充分な判断能力が認められない場合には、親本人が売却などの法律行為を行なうことができなくなります。その場合には、家庭裁判所に申し立てをし、成年後見人を選任してもらうことになります。成年後見人を選任するには通常1ヶ月以上時間がかかります。
 親の自宅を売却するためには家庭裁判所から特別の許可を受ける必要がありますから、さらに時間がかかります。なお、成年後見人には弁護士や司法書士など第三者が家庭裁判所から選任されることが多くなっています。

 成年後見関係事件の概況

 親本人に判断能力がある時に任意後見契約を結んでおけば希望する人を後見人にできますから、任意後見人を本人の意思で選ぶことができる任意後見契約の利用も考えておきましょう。