賃貸物件を売るときの注意点と用意するもの

 賃貸中の物件を売却する時には、賃貸物件特有の注意する点や用意するものがあります。

賃貸物件を売るときに注意したい10項目

 賃貸中の物件を売却するときには、下記の10項目に注意してください。
 1. 入居者の意思を確認する
 2. 賃貸中の物件は売却価格が低いのが相場だと覚悟する
 3. 売却理由を聞かれることがある
 4. 収益物件の仲介が得意な不動産会社に依頼する
 5. 滞納家賃と敷金の取扱について協議する
 6. 付帯設備の責任を明確にする
 7. 先取りした賃料は新しい所有者に渡す
 8. 賃借人の情報を新しい所有者に引き継ぐ
 9. 慣習も引き継ぐ
 10. 住宅用の控除は使えません

 1.入居者の意思を確認する
 できれば売却前に入居者に声をかけてみましょう。賃貸借契約を終了させる意思が賃借人にあれば収益物件ではなく一般の物件として売却できますから、購入希望者をより広く求めることができます。また賃借人に購入意思がある場合には売却活動をする手間が省けますから経済的です。実際に入居者がそのまま賃貸物件を購入する例は多くあります。なお収益物件を売却することについて賃借人の承諾は不要です。ただし、売却するからという理由で賃貸借契約を解除することはできません。

 2.賃貸中の物件は売却価格が低いのが相場だと覚悟する
 一般的に収益物件を購入する方は投資目的ですからコストが重視されます。収益物件として利回りや、今後の地価上昇による売却益などを見込んでの値付けになり一般の住宅用とは異なった見方をします。また入居者がいる為購入前の内覧もできないので、建物内部の不具合や経年劣化の状態が読めません。このような理由から住宅用の一般物件よりも売却価格が低くなることを予想して売却しましょう。

 3.売却理由を聞かれることがある
 収益物件を売却する動機を気にする方もいます。利益がでている物件を売却するからには相応の理由があると思うからです。「投資をやめたい」「手持ちの物件数を整理したい」など、売却する理由があるはずですから、たずねられたら率直に説明しましょう。もしも事故物件など不利になる理由があったとしても、説明責任を果たしていなければ後日トラブルになり、契約不適合責任を問われることになってしまうので注意して下さい 。

 4.収益物件の仲介が得意な不動産会社に依頼する
 収益物件と一般の住宅用の物件では市場が異なります。住宅用の物件とは異なり、購入者は収益物件に投資目的で興味をもっている方に限られますから市場は限定的です。一つの不動産会社の社員の中にも収益物件が得意な社員がいれば、また得意ではない社員もいます。収益物件の市場は地域に限定されず、全国的に、また国外にもオーナー候補はいますから、今までの実績を確認して収益物件の仲介に慣れた不動産会社に仲介を依頼しましょう。過去に収益物件を紹介した実績があれば同じ方が購入する可能性があるのが収益物件の特長です。そのことから収益物件を扱った実績が多いほど顧客を多く抱えていて売却がすすみやすい傾向にあります。

 5.滞納家賃と敷金の取扱について協議する
 賃借人から預かっている敷金や保証金は、賃借人に返還するお金ですが、返還する時期は賃借人が退去して明け渡した後、滞納家賃や修繕費などを精算した後になります。そのため賃貸物件を売却したからといって賃借人に返還することはありません。敷金や保証金は売主から新しい所有者に引き継ぐことになります。ところで賃借人に家賃の滞納がある場合には、新しく所有者になった方は売主が所有していた期間の滞納家賃を請求することができません。判例では敷金から滞納分を差し引いて残りのお金を新しい所有者に引き継ぐことになっていますが、実際の取引では敷金全額を新しい所有者に引き継ぐことが多いです。どのような取扱にするのか事前に充分話し合いをしておきましょう。

 6.付帯設備の責任を明確にする
 新しい所有者が購入後すぐにエアコンや給湯器などに故障があれば、売主と買主のどちらに責任があるのか、賃借人に請求できるものなのか、明確になっていなければトラブルになってしまいます。売主には契約不適合責任も課されますから、売買契約にあたって付帯設備表などを作成し、現状を明確にしておきましょう。

 7.先取りした賃料は新しい所有者に渡す
 売買代金決済、物件引渡の日で区切りをつけて、管理費や修繕積立金、家賃の精算を行ないます。先払いの賃料であれば引渡し日以降の分は買主に渡します。管理費や家賃の銀行の引き落とし手続きなどが間に合わないことが多く、ほとんどの場合は日割計算をして精算を行ないます。

 8.賃借人の情報を新しい所有者に引き継ぐ
 賃借人の家賃の支払い状況などは新しい所有者がとても気になるところです。マンション一棟の売買なら数人〜数十人の賃借人がいますから、賃借人のリストを作り、どのような賃借人がいるか一目でわかるように準備しておくと喜ばれます。

 9.慣習も引き継ぐ
 例えば、敷金や保証金について地域によって慣習が異なることがあります。敷金と礼金とで定義が異なり返還義務の有り無しで、必ずしも一致しません。
関西では敷引きといって契約終了時に敷金から一定の額を差し引き、全額を借主に返還しない慣習があります。このような慣習は所有者や賃借人という人の属性ではなく、物件所在地という場所の属性によります。
現在では、収益物件の売買は地域をまたいで日本全国で行なわれており、地域の実情に詳しくない方が購入することも珍しくありません。そのため、後日の無用なトラブルを避けるために、慣習も含めて明文化して引き継ぐようにしましょう。

 10.住宅用の控除は使えません
 住宅として使っていた不動産の場合には、譲渡所得税の控除などの課税特例措置がありますが、収益物件を売却した場合には税金の特例が利用できません。また、引き継いだ敷金や保証金は今まで預り金であがっていたものが経費確定するなど、収益物件特有の経理処理が必要です。そのため申告漏れなどがないように注意してください。

賃貸物件を売却するために特別に用意するもの3点

 賃貸中の物件ならではの、特別に準備しておきたいものは次のものです。
 1. 賃貸借契約書
 2. 管理会社との管理委託契約書
 3. リフォーム・修繕の履歴がわかる資料

 1.賃貸借契約書
 新しい所有者は売主と賃借人の賃貸契約の内容をそのまま引き継ぎます。そのため現在売主が賃借人と締結している賃貸契約書を渡せるように準備しておきましょう。契約書に記載されている家賃、敷金などの条件が重要です。また賃貸契約書をみれば一般の賃貸借契約かサブリース契約なのかの判断ができるからです。

 2.管理会社との管理委託契約書
 新しい所有者が引き続き同じ管理会社に賃貸管理を任せることもありますし、今までの管理会社から変更することもあります。どちらにしても、新しい所有者に現在の管理委託契約の内容を知らせなければなりません。

 3.リフォーム・修繕の履歴がわかる資料
 新しい所有者は入居者がいるために内覧ができず、室内の様子がわかりません。室内写真や図面など、室内の様子がわかる写真やリフォームや修繕をしたときの図面などの資料があれば新しい所有者に渡せるように準備しておけば新しい所有者は安心できます。