家族信託とは?
家族信託された不動産の売却方法は?

認知症に対応するための制度として成年後見制度と並んで話題にあがる家族信託について、また家族信託された不動産の売却方法について解説します。

家族信託とは

家族信託とは、信頼できる家族の間で財産の管理や運用を任せる方法の一つです。成年後見制度による後見人は本人(被後見人)を代理する権限がありますが、その権限は本人の財産を維持し管理することに主眼がおかれています。そのため成年後見人は賃収物件のリフォームや資産の運用も基本的には権限外の行為であり、特に本人が居住する不動産を売却するには家庭裁判所の許可が必要になっていることなど家族信託における受託者の権限と比べて制限が多いのが特長です。

 家族信託と商事信託
 家族信託は平成18年に信託法が改正されたことによって認められた新しい信託制度です。改正以前は信託銀行など信託を行なえる機関は限定された営業行為として認められていました。
 営業行為として行なわれる信託を商事信託といい、非営業行為として行なわれる信託が家族信託(民事信託)です。
 商事信託の場合は営業が目的ですから当然に報酬が発生し、信託する財産もある程度の規模でなければ信託財産として受けてもらえません。
 家族信託は非営業行為だとしても信託を受けてくれる人(受託者)に対して報酬を支払うことは可能です。

 家族信託の契約当事者
 信託は
 1. 委託者
 2. 受託者
 3. 受益者
 が基本的な当事者となって契約をします。この当事者は家族信託でも同じです。

 1.委託者
 信託する財産を所有している人です。

 2.受託者
 信託目的の財産を預かり管理、処分あるいは運用を行ないます。行なうことができる行為の範囲は信託契約において定めることになります。

 3.受益者
 信託では管理するだけではなく、運用や処分行為を行なうことができます。運用や処分行為によって生じた利益を受け取ることができる人を信託契約において定めることになります。通常は委託者が受益者となります。

 信託された財産は誰のもの?
 信託された財産の名義は受託者に変更されます。不動産が信託財産であれば委託者から受託者に所有権が移転した形式をとります。しかし、受託者は単に管理運用する権限をもつようになるだけであり、収益は受益者のものになります。そして委託者は名義人でなくなりますから不動産を処分することはできなくなります。

 このような権利関係は債権者の立場になるとわかりやすいのですが、債権者は委託者に対して債権を有していても委託者が所有していた不動産は受託者の名義になっているので差押ができなくなります。また受託者の債権者は受託者名義の信託財産を差押できるかといえば受託者は名義を保有しているだけですから、こちらもできません。このように信託によって特殊な権利関係が構築されます。(ただし、委託者の債権者は受益権に対して差押することができますし、信託行為が詐害行為であるとして取消を求めることができます。)

 信託契約の内容によっては相続にも影響します。
 例えば委託者を甲、相続人に乙と丙がいるところ、甲と丙が仲たがいをしたために丙は甲が亡くなったときに相続したくないと相続放棄をしました。この場合、信託契約の内容として第二次の受益者(受益者甲の承継人)として丙が指定してあれば丙は相続放棄をしたにも関わらず甲から財産(受益権)を承継してしまうのです。

家族信託の方法

 家族信託された不動産の売却方法
 家族信託をされた不動産を売却するときにはどのようにすすめていくのかを解説します。

 家族信託の契約内容の確認
 不動産の名義人である信託受託者に売却する権限があるかを確認しましょう 。信託契約による受託者の権限は信託条項によって定められるからです。信託登記をされたときに作成された信託目録をみてみましょう。受託者の権限は登記事項になっています。信託契約の際に受託者に売買についての権限が与えられていなければ不動産を売却することができません。不動産を売却することで信託をした目的を達する時には信託契約自体を解除して委託者名で売却することが可能です。売却後も信託を継続する場合には、信託契約を変更して受託者に売却の権限を与えることもできます。

 売買契約の当事者
 不動産を売却する権限を有している受託者が売買契約の当事者になります。不動産の売却仲介を依頼するための媒介契約や売買契約、不動産の引渡しなど全て受託者が単独で行なうことができます。ただし、この場合単に売主「甲」と記載するべきではなく、売主「受託者甲」と信託契約の受託者として契約などの行為をしたことをはっきりと記すべきです。

 課税は誰に?
 不動産の売却によって利益がでる場合には譲渡所得税を納めることになりますが、納税義務者は受益者です。既に説明をしていますように、信託財産の利益は受益者に帰属するからです。

まとめ

 家族信託について、その概略と売却方法について解説しました。家族信託は成年後見制度を補完する自助の制度でもあり、遺言に代替えできる制度だとも言われています。しかし家族信託によって複雑な権利関係になり信託契約の定め方によっては思わぬ税金が課されるおそれがあり、また相続人などに過度の負担がかかってしまうこともあります。
 家族信託を行なうには、家族信託に慣れている専門家に相談をしながら慎重に検討することが必要です。