外国在住者の不動産売却方法は?

現在、すでに国外に住んでいる人や、今から長い海外出張が決まっているけど、日本にある不動産の売却をするのに、どうすればよいのかわからない…等と不安を感じる方もいるでしょう。

売却の流れ

 所有者が国外にいる場合でも手順は国内にいる人と変わりません。まず査定を不動産会社に依頼して、購入希望者を探すために仲介を依頼する。そして、購入者が決まれば売買契約をして、代金の授受と引き換えに不動産を引き渡すことになります。
 日々の打ち合わせは、現在はメールでやりとりできますし、携帯電話もつながります。ところが、相手がいる不動産会社との媒介契約(売却を不動産会社に依頼する為の契約)や不動産購入者との売買契約になるとどうしても書類に記名押印が必要になります。
 書類を直接やりとりするには航空便を使えば少しは早くできますが、それでも相当な時間が必要になってしまいます。
 その不都合を避けるためにまず、国外にいる人から日本国内にいる人に、代って手続きをしてくれる『代理人』を選んでおくとスムーズにことが運びます。大事な不動産やお金がからんでくることなので、代理人は信頼できる人を選ぶことが大切です。

外国在住のために特に必要なもの

 現在国外に仕事や学業などのために住んでいるとしても居住実態がどうなのか、が問題です。

 印鑑証明書
 住民票が日本国内にあって印鑑証明書も取得できるのであれば引渡しまでの手続きは売主が日本国内にいるのと同じようにできます。契約ごとの本人確認をどのようにするかの問題が残るだけです。

 不動産売却を手伝う不動産会社にとっても、売買による所有権移転登記の委任を受ける司法書士にとっても本人確認は重要なことですので、必ず何らかの方法で、売主が所有者本人であると確認できることが必要です。

 在留証明書
 国外にいる日本人が住所を証明するためには日本の在外公館に出向いて在留証明書を取得する必要があります。
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000554.html#2-3

 この在留証明書と署名証明がセットになって日本の印鑑証明書と同じ扱いになります。

 さらに登記記録でAの住所に登記されているところ、日本国内でA→B→Cと転居し、さらに国内C→国外D→国外Eと転居している場合には複雑になります。
日本にいる人も同様ですが、登記記録上の住所と売主の印鑑証明書の住所は同一でなければなりません。そのため住所が変更している場合には、売買による所有権移転登記の前提として、登記記録の住所を現在の住所(=印鑑証明書、在留証明書の住所)に変更する必要があります。
変更するには証明資料を添付して法務局に登記を申請することになります。例の場合には日本国内でA→B→Cと変更した履歴がわかる住民票の除票や戸籍の附票を取得し、国外でC→D→Eと変更した証明書を取得する必要があります。

在外公館で在留証明書を発行してもらうためには、そこに居住していることが証明できる文書(現地の官公署が発行する滞在許可証、運転免許証、納税証明書、公共料金の請求書等で住所の記載があるもの等)を持参しなければなりません。

 署名証明
 住民票に日本から国外に転居したことが記載されている場合は日本で印鑑証明書を発行してもらうことはできません。外国で印鑑証明書の制度を採用している国はほとんどありません。
そのため在留証明書と同様に日本の在外公館に行って署名証明を発行してもらうことになります。
注意しなければならないのは、署名証明と言いながら実は『署名の字形』を証明するものではないことです。証明しているのは、証明者の面前で
● 署名する人が本人であることを証明したうえで
● 本人確認をした本人が
● 文書に自ら署名した
事実です。

 署名証明は署名証明のみが単独で発行されるものと、署名が必要な文書と合綴されて発行されるものとがあります。薄い文書だとシール(押印)で通して押してある場合もありますが、そうではなく糊付けされただけのこともあります。外国では『契印』や『割印』の概念がないようです。(そもそもハンコがありません。外国では各ページにイニシャルサインをすることはあるようです。)
不動産登記の手続きでは原則的に合綴されている署名証明が必要になります。署名証明と文書を合綴してもらうためには、署名証明を発行してもらう前に必要な文書を入手しておかなければなりません。

 委任状
 国外にいる本人が手続きできなければ国内にいる誰かに手続きを依頼することができます。委任した事実を証明するために委任状を本人が発行します。
包括的に売買全般を代理人に任せることもできますが、間違いをできるだけ少なくするために、特定できる限り詳しく特定した内容の委任状にしておくと安心です。
不動産の売却による所有権移転登記を代理人に任せたことを証明するための委任状には必ず署名証明が必要です。

 国外の公証人(NOTARY PUBLICなど)の利用
 在外公館から遠く離れているので日本に帰るのも難しいし、在外公館に出向くことも難しい場合には、現地の公証人が証明した文書でも代用できます。
 https://www.uk.emb-japan.go.jp/itpr_ja/Shomei.html

 ハワイなど日本からの移民が多い場所では、日本語が通じる公証人が多くいて、例えば拇印を各綴じ代に押させるなど、日本で通じやすいようにしてくれる公証人もいました。

税金

 本人は国外に住んでいても、不動産が日本にあり日本国内で売買が発生すれば日本に税金を納めなければなりません。1年以上国外にいる人を税法上『非居住者』として、課税のうえで特例を設けています。
 
 源泉徴収される
 本人が国外に住んでいるため税金が未納になるのを防ぐために、売買の場合は買主が売買代金の内から税金分を差し引いて(源泉徴収)売主に代金を渡さなければならないことになっています。買主が、売主が払う税金を預かるのです。買主は源泉徴収した税金を翌月10日までに納税します。
納税した『支払調書』は売主に渡してあげましょう。売主が来年の確定申告に必要です。
売主は翌年確定申告をすることで納め過ぎた税金があれば還付してもらえます。
 
源泉徴収額は売買代金の10.21%(所得税10%、復興特別所得税0.21%の合計)となっています。ただし、次の場合は源泉徴収する必要がありません。
● 売買代金が1億円以下の場合
● 個人が購入して購入者本人または親族が住居として利用する場合
 
 確定申告が必要
 所有者は不動産の売主として所得が発生すれば翌年の確定申告の時期に税務署に確定申告を行わなければなりません。確定申告の際に買主が源泉徴収した支払調書を提出します。
 国外にいる場合は日本国内に税務手続きを代行する『納税管理人』を選任して税務署に届け出る必要があります。納税管理人になるのは個人でも法人でもかまいません。納税管理人になっても納税管理人自身には納税義務は発生しません。
 
 確定申告をすることにより、先に源泉徴収されて納め過ぎた税金があれば還付されます。所有者が国外にいても特例は日本在住者と同様に扱われます。所有期間の長短による譲渡所得税の税率や3,000万円の住宅控除も利用することができますので、申告の際には忘れずに利用できる特例は利用しましょう。