ローン残債のある住宅を売却する方法』ですこし紹介した「任意売却」についての解説です。

不動産を売却してもローンの残高分に満たない場合、つまり抵当権の解除がむずかしいと考えられるときにおこなうのが任意売却です。ほとんどは住宅ローンのあるマイホーム売却で利用される手法です。

任意売却が債権回収の手法として利用されるようになったのは、20年以上前からのことで、2009年のリーマンショックにより成立した「中小企業金融円滑化法」の影響もあり、より多く普及するようになりました。

一般的に “競売” との比較によりメリットが論じられることが多く、ここでも同様の視点から特徴をまとめてあります。

 

 

通常の売却と同じ手順ですすむ任意売却

任意売却は通常の売却とほとんど同じプロセスで、すすむことが大きなメリットです。

競売の場合は法律にもとづいた強制力のあるものなので、売主にとっては非常に嫌な思いをすることもあります。典型的なことが「執行官による現況調査」です。

事前に訪問日の連絡がきますが、都合が悪くても執行官は「開錠業者」を伴い訪れます。つまり留守の場合は玄関の鍵を開けて入室します。現況をあちこち写真に収め、物件情報として公開されます。

通常の不動産売買では、執行官の調査は「不動産査定」に該当しますが、留守宅に勝手に入ることなどありませんし、室内の写真に関しては公開したくないものは、売主の判断で除外できるものです。

任意売却の手順は次のようにすすみます。

手順 通常売却との違い
不動産査定 通常とまったく変わることはありません
売出し価格の決定 債権者の金融機関が判断します
媒介契約締結 通常とまったく変わることはありません
販売活動 通常とまったく変わることはありません
売出し価格の変更 債権者の金融機関が判断します
購入希望者の発見 通常とまったく変わることはありません
購入希望者からの値交渉 債権者の金融機関が判断します
売渡価格の決定 債権者の金融機関が判断します
売買契約 通常とまったく変わることはありません
引渡し 売買代金は受領後債権者に渡ります

 

 

手付金は不動産会社が預かる場合がある

売買契約時には買主から手付金を受領します。手付金はほとんど「解約手付」として受領するもので、引渡し時には売買代金に充当します。

売買代金は売主が形式上受領しますが、全額債権者である金融機関に移管するのです。そのうえで債権者が不動産会社に仲介手数料を支払い、他の清算金などの支払いをおこない原則的に、売買代金から売主が得る金銭はありません。

つまり手付金は最終的には債権者に回収される金銭のため、引渡しまでの期間は不動産会社が預かることがほとんどです。

任意売却には期限がある

通常売却と異なるのが任意売却には期限があることです。

通常の売却では売れるまで2~3年間も販売活動を継続し、苦労の末やっと売り切ることに成功するなどのことがありますが、任意売却は債権者により期限が決められます

唯一ここがデメリットといえる部分です。

債権者は任意売却をすすめながらも、もう一方「競売」も選択肢として残っています。期限が経過し売れる見込みがなければ並行して競売手続きを進めます

任意売却が可能な期間は債権者により異なりますが、6ヶ月を経過するとむずかしくなると判断しなければなりません。

仮に競売手続きがすすみ「入札開始」までであれば、任意売却できる可能性は残っていますが、時間的には非常にきびしいものがあります。

また売出し価格は債権者の判断で決まるので、任意売却としては無理な価格設定をされることもあり、 “売りたいのに売れない” といった状況になることもあるのです。

 

 

任意売却の前にチャレンジしたいリスケジュール

任意売却は返済が困難になった債務者の救済措置なので、返済能力のある段階では金融機関は応じてくれません

延滞履歴はまだないが2ヶ月後からは見通しが立たないなどの状況の場合、金融機関にリスケジュールの相談をすることをお勧めします。

リスケジュールとは

返済額の軽減や返済回数の延長など、返済条件の変更をおこなうことをいいます。

リスケジュールが可能になるとマイホームを手放すことを避けられます。任意売却はマイホームを失うことを意味しているので、返済条件の緩和により持ちこたえることができるかもしれません。リスケジュールがうまくいかない場合は、任意売却を選択する考え方が望ましいといえるでしょう。

任意売却は “救済措置” と前述しましたが、延滞履歴が実際に生じてから手続きが開始されます。延滞がおきる前から手続きできるものではありません

毎月の返済が滞るようになり3ヶ月ほど経過するころに、督促状などが送付されてきます。6ヶ月近くになると「期限の利益の喪失」を通知する文書が届きます。

「期限の利益の喪失」とは、長期の分割で返済できる条件で契約した「金銭消費貸借契約」ですが、一括で返済しなければならなくなることを意味しています。一括で返済できない場合には、保証つき融資の場合は保証会社が「代位弁済」をおこないます。

      • 期限の利益の喪失
      • 代位弁済の実行

これらの条件が整ってから、正式に任意売却を進めることができるようになります。代位弁済がない場合には、融資した金融機関が抵当権の行使をおこなう条件が整ったときからスタートできるのです。

 

 

残債務や引っ越し代はどうなるのか?

任意売却は金融機関にある債務のすべてを清算することはできません。競売であっても同様で債務は残ってしまいます。一般的に競売のほうが売却価格は低下するので、残債は多くなってしまいます。

競売は裁判所による法的処理なので、残債務についてもきびしく請求されることになります。残債務の返済から逃れるために “破産手続き” に進むこともあるのですが、任意売却はすこし状況が変わります。

残債についても話し合いをすることができ、結果的には月々わずかな分割払いで可能になることが多いのです。

競売との比較ではもうひとつ大きな違いがあります。それは引っ越し代についてです。

競売は強制的に売却され強制的に退去させられます。対して任意売却は文字通り “任意” なので、債務者の事情に考慮してもらえる余地が残ります。

金融機関にもよりますが、多くは引っ越し代の捻出を売買代金から認めてくれるケースがあるのです。

 

 

まとめ

競売件数は2009年から減少がつづいています。大きな原因は「中小企業金融円滑化法」の影響と考えられますが、リスケジュールが実施されるケースもあれば、任意売却が増加しているとも想像できます。

住宅ローンは非常に長い返済期間が特徴であり、社会や経済環境の変化により、計画通りの返済が困難になることもあります。そのようなときに、リスケジュールや個人再生といった方法もあります。

またマイホームを失うことは辛いことですが、任意売却により一度ローンを整理して、再出発する方法もあるのです。競売だけはできるだけ避ける方法を考えたいものです。