不動産を売却する手順のスタートは「不動産査定」からです。いくらで売れそうか、いくらで売り出すかを決めるため査定は欠かせません。また査定にはもうひとつ目的があって、仲介を依頼する不動産会社を選択するためにも大切なプロセスです。

ここでは不動産査定をおこなう実際の方法と、最近多くなった「査定アプリ」を紹介し、査定依頼する会社の選び方についても解説します。

 
 

不動産査定は3つの方法でおこなう

不動産査定は不動産鑑定法による手法に準じておこなっています。

      1. 原価法
      2. 取引事例比較法
      3. 収益還元法

以上の3種類あり、査定する不動産の種類や用途により適切な方法を選択しますが、複数の方法により査定をおこない、売出し価格を多角的に検討することもできます。

 
 

原価法

原価法は再調達原価を計算し、建物の築年数に応じて減価修正した結果を不動産価格とする方法です。

建物の査定価格はこの方法により計算しますが、土地の場合も再調達原価による価格算出は可能です。しかし価格に影響を与える要素が複雑であり、一般的には「取引事例」や「公示地価」から、現在の土地価格を算出します。

再調達原価とは

査定する時点において、対象不動産と同等の不動産を建設取得するために必要な費用をいいます。

たとえば築50年の建物であった場合、50年前の建設コストではなく現在時点でのコストにより計算した金額になります。

減価修正は耐用年数から経過年数を差し引いた「残存耐用年数」と「耐用年数」の割合により、再調達原価を低減させます。

耐用年数は法定耐用年数ではなく、次式により計算します。

耐用年数=経過年数+経済的残存耐用年数

経済的残存耐用年数とは

査定する時点において、対象不動産の状況により「あと何年」使用できるかを想定した年数。

 
 

取引事例比較法

取引事例比較法は対象不動産の近隣地域や類似する地域で、対象不動産と同様な用途と考えられる不動産の取引事例を選択し、対象不動産との比較により適宜補正や修正を加えて価格を算定する手法です。

取引事例の件数が多いほど査定金額の合理性が保たれます。土地の査定実務においては「公示地価」による場合もあります。

取引事例比較法はいろいろ応用の効く査定方法であり、次のような方法を実務では用いることが多いです。

      1. 土地の査定を取引事例でおこない、建物の査定は原価法でおこなう
      2. 土地の査定は取引事例か公示地価により算出し、建物を取引事例により査定する
      3. 土地と建物の合計金額を取引事例により査定する

取引事例の抽出はできるだけ直近のデータが望ましいのですが、取引があまり頻繁におこなわれない地域ではデータ量が少なくなります。過去データが古い場合は「時点修正」をおこなう必要もでてきます。

 
 

収益還元法

賃貸用の不動産査定に用いられるのが「収益還元法」です。賃料収入額から利回りを逆算し価格を求める手法で、次の2種類の方法があります。

      1. 直接還元法
      2. DCF法

賃貸用の不動産以外にも用いることができます。たとえば自宅の査定であっても、貸家にした場合の想定賃料から査定額を計算することも可能です。

2種類の方法のうち「DCF法」は将来の売却価格も含めて計算する方法で、複雑であるのと将来予測の正確性が問題であり、不動産査定では「直接還元法」を用いるのが一般的です。

 
 

土地価格の査定

土地の査定では上記のほか、固定資産評価額・相続税路線価も活用しておこなうことが多いです。

      • 固定資産税評価額は時価の7割
      • 相続税路線価は時価の8割

以上のようにそれぞれの公的評価額から時価を逆算することもできます。

ただし固定資産税評価額は3年に一度の見直しが原則なので、場合によっては「時点修正」が必要になることもあります。

取引事例を抽出するデータは、宅地建物取引業者ネットワークの「レインズ」や「土地総合情報システム」を使用しています。

レインズは宅地建物取引業者以外みることができませんが、「土地総合情報システム」

(https://www.land.mlit.go.jp/webland/)は一般のかたも利用できるシステムです。

 
 

不動産査定アプリとは

不動産査定を不動産会社に依頼しないで自分で査定する方法もあります。不動産査定アプリやAI査定などのインターネット広告を見ることが多くなりました。

次のキャプチャー画像は不動産査定アプリのひとつ、「HowMa」に登録したある地点の取引事例データです。

 

引用:HowMa(https://www.how-ma.com/)

メールアドレスと価格の知りたい地点を登録しておくと、1週間ごとに査定価格の更新通知がきます。

プログラムの詳細を知ることは不可能ですが、取引事例比較法による査定を自動的におこなっているものと思われます。

「最近、このあたりの単価はいくらだろう? 」などと知りたいときには非常に簡単ですが、査定結果の根拠はまったくわからず、取引事例の詳細を把握することはできません。

あくまでも “目安” を知る目的であり、実際の売却にあたっては不動産会社の査定が必要であることは言うまでもありません。

スマホアプリでは「らくらく不動産査定」などもあります。

https://play.google.com/store/apps/details?id=com.embarcadero.assessment_app

 
 

査定を依頼する時の注意点

不動産査定の方法はいくつかありますが、どの方法によるかは問題でありません。査定額は初期の売出し価格を決め、不動産会社に仲介を依頼する媒介契約締結の準備をすることが目的です。

理解しておかねばならないのは、査定額とは “必ず売れる金額” ではありません。 “売れるかもしれない金額” を売主に提示するものです。

ほかにも不動産会社により、査定額には違う目的が盛り込まれている場合もあります。

それが媒介契約締結を目的とした不動産査定です。

不動産査定は媒介契約前におこなうので、目的のひとつは媒介契約を締結するためなのですが、 “媒介契約の締結だけを目的” としている場合があるのです。

つまり査定した金額で本当に売れるかどうかではなく、契約締結さえできれば査定金額の適正さを問題視しない会社があります。

不動産会社は仲介業務をおこなったとしても、最終的に取引が成立しなければ報酬を受け取ることができません。仲介業務をおこなうためには「媒介契約」の締結が必要です。

不動産会社は媒介契約の締結がなければ、スタートラインにも立てないわけです。売主からの売却依頼を受けるためには、査定額は低いより高いほうがよいことは当然といえるでしょう。

そこで他社では出さないような “高い査定金額” を提示し、媒介契約を締結したあとは1ヶ月ほど仲介活動をおこなったのち、「反応が悪い」などの理由で売主に対して、売出し価格の値下げを提案しようとするのです。

複数の会社から査定をしてもらい、とび抜けて高い査定金額は注意が必要です。

 
 

まとめ

不動産査定には3つの方法があります。対象不動産によって適した査定方法もあれば、複数の査定方法を用いることもあります。

査定金額は売出し価格を決定する重要な要素ですが、故意に高く査定するケースについても解説しました。適正な査定をおこなう会社と信用できない会社があります。

複数の会社に査定を依頼することにより、適正な価格を知ることができます。複数査定が鉄則であることを覚えておいてください。